大阪家庭裁判所 昭和39年(少)15603号 決定 1965年1月13日
少年 G・S(昭二六・四・二生)
主文
本件を大阪市中央児童相談所長に送致する。
少年に対し、逃走防止のため、三ヵ月を限度としてその行動の自由を制限する強制措置をとることができる。
理由
(従来の保護経過および強制措置を必要とする理由)
少年は、昭和三八一一月一一日当裁判所において当庁同年少第一二六〇二号、同第一三四一八号触法、虞犯保護事件につき、「本件を大阪市中央児童相談所長に送致する。同相談所長は、少年を教護院強制措置寮に独居室二週間、雑居室六ヵ月を限度として収容することができる。」旨の決定を受け、同年一一月一六日大阪府立修徳学院に収容された。爾来同学院の強制寮において教護されたが、その生活経過に鑑み昭和三九年三月三〇日普通寮に移されたところ、同年四月六日同学院を無断外出し、翌七日より上記強制寮に再収容の上同月一一日再度普通寮に移されるや、翌一二日よりまたも同学院を無断外出して帰宅してしまつた。その後同年五月一二日発見補導されるまでの間無断外出や外泊をしつつ放浪し、これがため同年七月一四日当裁判所において当庁同年少第七三一二号虞犯保護事件につき「本件を、大阪市中央児童相談所長に送致する。少年に対し、逃走防止のため、通算一八〇日を限度としてその行動の自由を制限する強制措置をとることができる。」旨の決定を受けて再び上記修徳学院の強制寮に収容されたが、その後も少年には依然粗暴で反抗的拒否的態度が続き、反則行為が頻発し、精神的安定は見られない。その間同学院においては、強制寮での生活が長期にわたることに鑑み、少年をして極力普通寮へ転寮せしめようと試みたが、少年は普通寮に移れば逃げ出したくなるとして強くこれを拒否するので、止むなく強制寮に収容のまま現在に至つた。かかる経過に照すと、少年には精神薄弱および精神病質の疑いもあるところから、今後は国立武蔵野学院において新らしい環境およびより適切な施設のもとで引続き治療並びに生活訓練を施すべく、更に強制措置を必要とするというのである。
(処遇)
少年にかかわる少年調査票、調査報告書、大阪少年鑑別所鑑別結果通知書並びに家庭裁判所調査官、大阪府立修徳学院長および同学院嘱託医川端利彦作成の各意見書、同学院長作成の「国立武蔵野学院へ児童送致について」と題する書面および保護記録を綜合すると、少年の性格、これまでの行状等については上記従来の保護経過のとおりであることが認められる。そうしてかかる事情に、実父亡きあと実母および兄がいずれも就労し事実上少年を保護できない少年の家庭環境を併せ考えると、少年を在宅保護に付することは到底期待できず、教護院において引続き教護を受けしめる必要があることは明らかであるところ、その際少年が既に約一年にわたり強制寮の生活を経ていることに鑑みると、この上更に強制措置を継続することは少年の心身に及ぼす影響を考慮し、にわかに是認できないように思われる。しかしながら少年は本件審判に際しても、逃走の理由は自分にも判らないが普通寮へ移ればまた逃げ出すだろうから今後も強制寮から普通寮へ転寮したいとは思わないと述べ、従来の経過に照しても、逃走から浮浪に至る行状傾向は依然として強いといわなければならない。さりとて、国立武蔵野学院に収容することは少年においてこれを嫌い且つ怖れているばかりでなく、かくしては実母の面会も不可能となることや、今後短期間に相当の効果を期待することはできないであろうこと等を考慮すると、必ずしも適当な処遇だとは云えないように思われる。その他少年が向後三ヵ月を出でずして一四歳に達し、然る後なお強力な保護措置を必要とする事態が生ずるときは、教護院強制寮によるよりも医療少年院等に収容保護することの方がむしろ妥当とも考えられること等諸般の事情を綜合判断すると、今後の少年の処遇については、原則として修徳学院の普通寮で生活せしめることとしつつ(この点は本件審判廷においても少年に説得した結果、少年も強制寮を出ることにつき一応了解した)、ただ従来の経過および少年自身の不安定な心情に徴し、今後三ヵ月を限度として強制措置をとることができるものとするのが最も妥当な措置であると考えられる。
よつて、少年法第一八条第二項に則り、主文のとおり決定する。
(裁判官 山田博)